週刊ポスト2017年9月15日号によれば刻一刻と迫る「年金75歳支給時代」が到来すれば、老後の人生設計はすべて白紙に戻ってしまう。
本誌・週刊ポスト9月8日号では『家計の見直し相談センター』代表でファイナンシャルプランナーの藤川太氏の指摘をもとに、「年金75歳時代では貯金5000万円でも足りない」という試算を紹介した。
では、どうするべきか。
政府の「働き方改革」に白旗を揚げるようで癪とはいえ、現実的な対策としてはやはり「できるだけ長く働き続けて収入を確保すること」を考えるしかない。
しかし、政府が「死ぬまで働け」と呼びかけるのと裏腹に、定年退職後に高齢者が望みの働き口を得るための環境は整っていない。
そうした状況の中で、これから老後を迎える中高年の危機感は募る一方だ。
その時代を反映してか、発売即重版のベストセラーとなっている書籍がある。
元ソニー常務取締役で、82歳の今も現役ビジネスマンとして働く郡山史郎氏が著わした『九十歳まで働く!』だ。
郡山氏は子会社のソニーPCLの会長、ソニー顧問などを歴任した後、プロ経営幹部の紹介を主業務とする株式会社CEAFOM(シーフォーム)の社長に就任。
多くの高齢者の再就職に関わってきた。
書名のポジティブさとは裏腹に、記されている内容は非常に厳しく現実的だ。
郡山氏がいう。
「学生時代、サラリーマン時代と、人生の前半は確固たる社会のシステムが構築されており、そこに身を委ねればある程度生活は保障されていた。
しかし年金問題を見れば分かるとおり、人生の後半期、つまり老後の社会システムはあまりに流動的です。
ここでは社会にあまり期待してはいけない。
頼りになるのは自分だけと考えるべき。
外から与えられて良い就労機会に恵まれることは非常に少ないとまず認識しなければなりません」
同書内では、高齢者が厳しい現実に立ち向かう上で必要な心構えを「定年後にやってはいけない十戒」としてまとめている。
その「やってはいけない」の筆頭は、意外にもこの2つだ。
■資格を取ってはいけない
■学校に行ってはいけない
少しでも有利な勤め先を得るために必要なことは何か──まず思いつくのが、「自らのスキルを高めておくこと」という答えだろう。
都内のメーカーに勤める59歳のA氏はこんな準備を始めている。
「“ツブシのきく資格を持つのが一番”と考え、ビジネスマンに人気の国家資格・中小企業診断士の受験に向けて準備を進めました。
今から司法試験や公認会計士というのは難しいでしょうが、このあたりなら……。
スクールには年間で25万円ほど支払っています。
未来への投資と思えば仕方がない出費です」
「中小企業診断士」は、日経新聞などの調査で、「新たに取得したい資格1位」となった人気資格だ。が、年齢を重ねるにつれて“狭き門”となっている現実がある。
同試験は1次試験と2次試験(1次試験通過者対象)から成る。
受験者全体の1次試験合格率(2015年、以下同)は18.7%となっているが、60~69歳は14.8%、70歳以上は9.3%に下がる。
2次試験となるとさらに高齢者の成績は悪化する。
全世代の合格率18.4%に対し、60~69歳は6.0%、70歳以上は18人が受験し、合格者はゼロだった。
資格スクール「LEC」の調査によれば、中小企業診断士資格取得までの学習時間は一般的に800~1000時間で、2~3年の準備期間を要するという。
通信教育で5万~10万円、資格学校では20万円ほどと、費用もバカにならない。そのうえで、郡山氏はこう指摘する。
「再就職の現場の実感として、医師や弁護士、公認会計士、薬剤師の資格なら価値はあるだろうが、それ以外の資格は取得しても再就職で有利に働くことはほぼない。
それどころか経営者によっては中途半端な資格を嫌う傾向もあり、非技術系のビジネス大学院卒も“採用したくない”と明言する人事担当者も多い」
再就職に有利と思って取った資格が、就職の妨げになるのだから本末転倒というほかない。
私も20代から資格を30種類以上取得したが、収入に結び付かなかった。
資格の選択に問題があり、ただ資格を増やせば何とかなるものではない。
資格更新費用だけとられ資格貧乏となる。
サラリーマンが資格で『飯を食う』確率は低いと見る。
ISO審査員資格でも取得後審査機関に所属することが予め約束されていればいいが、そうでない場合は難しい。
資格をとっても運と人脈が作用する。
役職定年が見えてくる40代から用意周到な準備が求められる。
会社から放り出されてからでは、時すでに遅し。